和菓子屋の鏡餅・のし餅予約販売、始め方と年末を回す段取り
和菓子屋・餅屋の年末の鏡餅・のし餅予約販売の始め方を解説。受付開始時期、サイズと価格設計、28日渡しなどの受取日の組み方、搗き上がり後の保存や表示の注意点、年末の繁忙期を回す段取りまで紹介します。

11月に入ると、常連さんから「今年も鏡餅お願いできる?」と声がかかり始めます。電話で受けた予約をメモ帳や手書きの台帳に書きつけていたら、気づけば受取日が28日に固まっていた。そんな年末に覚えのある方も多いはずです。
年末の餅の予約販売は、和菓子屋や餅屋にとって売上の大きな柱です。ただ、段取りを一つ間違えると、ピークの日に店も作業場も回らなくなります。ここでは、受付を始める準備から年末を乗り切るまでの流れを、順番に追っていきます。
年末の餅予約が和菓子屋にとって大きな商機になる理由
予約販売の一番の良さは、作る量が先にわかることです。予約数をもとに仕込めるので、売れ残りを減らせます。鏡餅にのし餅、豆餅と組み合わせて買ってもらいやすく、客単価も上がりやすくなります。
普段あまり顔を見せないお客様が、年に一度足を運ぶ理由にもなります。そのついでに正月菓子や年明けの商品を知ってもらえるのは、ありがたい機会です。スーパーのパック餅との違いを「店で搗いたお餅」として打ち出せるのも、専門店ならではでしょう。
難しいのは、注文が短い期間にどっと集まることです。蒸し器も餅つき機も人手も、急には増やせません。だから最初に「うちはどれだけ受けられるか」を決めておく。年末を乗り切れるかどうかは、ここで決まります。
鏡餅・のし餅・切り餅のラインナップとサイズ・価格の決め方
基本の3本柱
品目はまず、次の3つを軸に考えます。
| 商品 | 特徴 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 鏡餅 | 二段重ねのお供え | サイズは3〜4種類に絞る。橙や敷紙などの飾りを付けるかどうかで価格を分ける |
| のし餅 | 板状で、家庭で切る | 白・豆・よもぎなど。もち米の量 (升・合など) を基準にサイズを決める |
| 切り餅 | 店で切り分けて渡す | 切る手間と包装の分を価格に反映する。自分で切るのが大変なご家庭向け |
サイズは「重さ」と「飾る場所」で伝える
「○号」「○寸」「○合」。お店では当たり前の呼び方でも、お客様にはピンと来ないことがよくあります。重さ (g) や直径の目安を書き添えておくと、ずいぶん選びやすくなります。「神棚用」「床の間用」「リビング・玄関用」のように、飾る場所の例を添えるのも手です。
価格は「年末仕様の原価」で計算する
普段の和菓子と同じ原価の感覚で値付けすると、年末の餅は利益が残りにくくなります。もち米や打ち粉といった材料費はもちろん、鏡餅のケース、のし餅の袋、飾り、ラベルなどの包材費もかかります。蒸し器や餅つき機を長く回すぶん、光熱費も増えます。見落としやすいのが、臨時スタッフの人件費や残業代。これらを全部足し上げてから値段を決めてください。
早めの予約を集めたいときも、大きな値引きに頼る必要はありません。「早く予約するほど受取日時を選びやすい」と案内するほうが、利益を削らずに予約を前倒しできます。
品目を広げすぎない
変わり種の餅はお客様の目を引きます。その一方で工程が増え、アレルギーへの配慮も増えます。特にえび入りの餅などは、ほかの餅に混ざらないような管理まで必要です。初めての年は、定番に絞っておくのが安全です。
受付開始と締切はいつにするか:11月からのスケジュール設計
下の表は一例です。もち米や包材の仕入れ先の締切から逆算して、お店に合わせて調整してください。
| 時期 (目安) | やること |
|---|---|
| 10月下旬〜11月上旬 | 品目・価格・受取枠を決める。もち米と包材の発注量を見積もる |
| 11月中旬 | 常連さんへの声かけやSNSで告知し、受付を始める |
| 12月上旬〜中旬 | 途中で集計し、もち米の追加手配とスタッフのシフトを決める |
| 12月20日前後 | 予約を締め切る |
| 締切後〜年末 | 日別の仕込み表を作り、製造に入る |
締切は「仕入れ」と「搗ける量」で決める
締切日は、カレンダーのきりのいい日で決めるものではありません。もち米を追加で手配できる最終日と、1日に搗ける量。この2つから決めます。品目ごと・受取日ごとに上限数を設け、上限に達した枠から締め切っていくのが基本です。
締切後の追加注文をどうするか
締切を過ぎてからの問い合わせは、毎年必ず来ます。店頭販売用に少しだけ多めに作っておくのか、きっぱりお断りするのか。方針を前もって決めてスタッフ全員で共有しておけば、電話口やレジ前で迷わずに済みます。
28日・30日渡しなど受取日の組み方と、避けたい日の扱い
飾る日の慣習を押さえる
鏡餅を飾る日については、29日は9が「苦」に通じ、31日は「一夜飾り」と言われて神様に失礼になるとして避けるのが一般的です。そのため、12月28日や30日に飾るのがよいと説明されることが多くあります。ただ、地域によっては29を「ふく」と読み、逆に縁起がいいとするところもあります。お店のある地域の習わしに合わせてください。
2026年は、28日が月曜日、29日が火曜日、30日が水曜日、31日が木曜日です。
受取日の組み方の例
| 受取日 | 主な品目 | 考え方 |
|---|---|---|
| 26日・27日 (土日) | 鏡餅・のし餅 | 週末に受け取りたい方向け。ピークを分散できる |
| 28日 (月) | 鏡餅中心 | 一番人気になりやすい日。枠の上限を必ず決める |
| 29日 (火) | 少なめ、または受取なし | 鏡餅の受け渡しは控えめにし、切り餅や翌日分の仕込みに回す |
| 30日 (水) | 鏡餅・のし餅・切り餅 | 二番目の山。のし餅は搗きたてを求める方が多い日 |
| 31日 (木) | のし餅・切り餅のみ | 鏡餅の受け渡しを置かない店もある。営業時間は短めに |
時間帯で枠を分ける
日付だけで受け付けると、どうしても午前中に人が集まります。「10〜12時」「13〜15時」のように、時間帯ごとに上限数を決めておけば、来店は自然とばらけます。
搗く量と人手の計画:予約数から逆算する仕込み段取り
予約数を「もち米の量」に置き換える
商品ごとに使うもち米の量を決めておき、「予約数 × もち米の量」を受取日ごとに合計します。この数字が、その日の製造量です。表計算ソフトで一覧にしておくと、途中の集計もあっという間に終わります。
1日に搗ける量から逆算する
1日に搗ける上限は、こう考えます。
1回に搗ける量 × 1時間に回せる回数 × 稼働できる時間 = 1日の上限
架空の例ですが、1回2升・1時間に3回・8時間稼働なら、1日48升が上限。予約がこれを超えそうなら、前日に作業を前倒しするか、受付の上限を下げて調整します。
工程と担当を決める
前日のうちに済ませておきたいのは、洗米と浸水、包材の組み立て、ラベルの準備です。当日は蒸す、搗く、成形 (鏡餅を丸める、のし餅をのばす)、冷ます、包装と進みます。それぞれ誰が受け持つのかを、先に決めておいてください。
切り餅は少し段取りが違います。搗きたてののし餅はとても柔らかく、そのままでは切りにくいもの。前の日に搗いた分を翌日に切る流れにすると、作業が安定します。
人手と衛生
家族や臨時スタッフに手伝ってもらうなら、本番前に一度練習日を設けておくと安心です。手洗いや手袋の使い方、体調が悪いときは申し出るといった衛生面のルールも、そのときに伝えておきます。
保存方法・賞味期限・アレルギー表示などお客様への伝え方
保存方法をわかりやすく案内する
搗きたての餅は水分が多く、カビが生えやすい食品です。専門家の助言では、家庭で手軽にお餅のカビを防ぐには、まず素手で触らないことが第一とされています。短い期間なら1つずつラップをして冷蔵、長く保存するなら冷凍がすすめられています。
お客様向けのカードには、たとえばこう書いておくとわかりやすいでしょう。
- 届いたらなるべく早く切り分ける
- 1個ずつラップで包み、保存袋に入れる
- 食べきれない分は早めに冷凍する
期限はお店で根拠を持って決める
賞味期限や消費期限は、ほかのお店の真似で決めないでください。自店の製法・包装・保存環境で確かめたうえで決めるものです。決め方に迷ったら、管轄の保健所に相談するのが確実です。
アレルギーへの配慮
アレルギー表示が義務になっている「特定原材料」は、えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生の8品目です。えび入りの餅にはえびが含まれますし、豆餅に使う大豆は表示が推奨されている品目にあたります。
表示が必要かどうかは、売り方によって変わります。同一施設での製造販売やばら売り、量り売り等の場合は、店頭の従事者へ製品の内容確認ができることを理由に、表示が免除されるという考え方があります。とはいえ、ネット予約や店外での受け渡しではどうなるのかなど、細かい判断が必要です。詳しくは保健所などの専門家にご確認ください。表示義務がない場合でも、原材料を書いたカードを一枚添えておけば、お客様は安心できます。
窒息事故への注意も添える
消費者庁の分析では、高齢者 (65歳以上) の餅による窒息死亡事故の半数近くは1月に発生していて、中でも正月三が日の多さが目立ちます。餅は小さく切っておく。食べる前にお茶や汁物で喉をうるおしておく。よくかんで唾液とよく混ぜ合わせてから飲み込む。こうしたポイントを案内カードに一言入れておくと親切です。
受取当日の混雑を防ぐ受け渡しと、年明けの鏡開き需要へのつなげ方
当日の動線を決めておく
まず、予約の受け渡しと店頭販売のレジを分けます。予約分を事前決済にしておけば、受け渡しのときに会計の手間がかかりません。
商品は受取時間順・予約番号順に棚へ並べ、名前と番号のラベルを貼っておきます。渡すときは「品目・数・飾りの有無」を声に出して確認。ここで取り違えを防げます。
もう一つ、受取時間に来られなかった方への連絡や、商品をいつまで預かるかも決めておいてください。当日になって慌てずに済みます。
予約管理を仕組みにする
電話とメモだけで予約を受けていると、年末は集計ミスや聞き間違いがどうしても起きます。予約の受付を仕組みにしたいなら、OutFood (アウトフード) を無料で始められます。受取日時の枠を設定でき、お客様は受取日時を選んで注文から事前決済まで済ませられます。管理画面では注文を「受付中 → 調理中 → 受取可能 → 完了」と進めて管理できます。Free プランは月20件まで無料で、件数が多い場合は Standard プラン (月額¥1,900〜) があります。アカウントはメールアドレスとパスワードだけで作れます: https://out-food.com/signup
ただ、電話でしか注文しない常連さんもいらっしゃいます。電話予約も残すなら、ネット予約と台帳のどちらで集計するか、誰が担当するかを決めておいてください。同じ予約を二重に数えるといったミスを防げます。
鏡開きで年明けにもう一度来てもらう
鏡開きは一般的に1月11日に行われます。ただし地域や家庭によって異なり、1月15日や1月20日に行う場合もあります。2027年1月11日は月曜日 (成人の日) です。
受け渡しのときに、お汁粉やぜんざいなど鏡開き向け商品のご案内を一緒に渡しておくと、年明けにもう一度来てもらうきっかけになります。案内カードには、鏡餅の開き方や、割った餅のおいしい食べ方を書いておく。来年の予約案内や SNS アカウントも、同じカードに載せておけば無駄がありません。
来年のために記録を残す
年末が終わったら、品目別・日別の予約数、締切日、品切れが出た商品、お客様からの声を書き留めておいてください。疲れていても、ここだけは忘れずに。翌年はこの記録を見ながら、仕入れと受付枠を決められます。
まとめ
年末の餅予約は、作る量が読めて客単価も上がりやすい、和菓子屋にとっての大きな商機です。品目は鏡餅・のし餅・切り餅の定番に絞り、サイズは重さと飾る場所で伝えます。価格は、年末の人件費や包材まで含めて計算してください。
受付は11月中旬ごろに始め、仕入れと1日に搗ける量から締切と上限数を逆算します。受取日は28日・30日が中心。29日・31日の扱いは地域の習わしに合わせ、時間帯ごとの枠で混雑を分散させます。
保存方法、期限、アレルギー、窒息への注意はカードにまとめて渡し、表示のルールは保健所に確認を。当日は事前決済と受け渡し専用の動線で、待たせずにお渡しできるようにしておきます。鏡開きの案内と来年の予約案内まで添えれば、次の来店につながります。
まずは、今年の品目と受取枠を決めるところから始めてみてください。



